『「この世の果て」を目指して——釧路発、エモい無人駅とシカの楽園を巡る野付半島ドライブ』

この世の果てー野付半島

この世の果て」と呼ばれる場所が、北海道にはあります。 日本最大の砂州(さす)、野付(のつけ)半島。

5年前のあの日、私は釧路からレンタカーを走らせていました。 日帰りの強行軍。返却時間を気にしながらのドライブは、正直に言って大忙しでした。

しかし、その道のりで出会った景色は、忙しさを忘れさせるほど、どれも強烈に心に残っています。

厚岸(あっけし)で味わった牡蠣の味。 原野にぽつんと置かれた、厚床(っとこ)駅のエモいベンチ。 時が止まったような、旧奥行臼(おくゆきうす)駅の木造駅舎。

そして、野付半島の「地の果て」、トドワラへ。

恐ろしく揺れるトラクターバスに揺られ、たどり着いたそこは、立ち枯れたトドマツが創り出す、幻想的で少し寂しい、まさに「この世の果て」のような静寂の世界でした。 ……かと思えば、道路脇では立派な角を持ったエゾシカたちが、のんびりと草を食む。

そこは、「地の果て」であると同時に、力強い命が息づく「シカの楽園」でもあったのです。

今回は、そんな忘れられない「この世の果て」を目指した、少しマニアックで濃密な、道東弾丸ドライブの記録をお届けします。

霧の向こうに広がる、立ち枯れた木々。静寂だけが支配する「この世の果て」のような光景。(2020年8月撮影)
目次

厚岸で一息。道の駅「コンキリエ」と赤い橋

道の駅「コンキリエ」の裏手から。厚岸湾と厚岸湖を跨ぐ赤いトラス橋、厚岸大橋が一望できます。

釧路を出発して約1時間半。最初の立ち寄りスポットとして選んだのが、厚岸(あっけし)町にある道の駅「厚岸味覚ターミナル コンキリエ」でした。

厚岸といえば、言わずと知れた牡蠣(カキ)の名産地。高台に位置するこの道の駅からは、厚岸湾と厚岸湖、そしてそれらを結ぶ鮮やかな「厚岸大橋」を一望できます。

旅の途中でひと息つきながら、名物の牡蠣料理を堪能し、目の前に広がる景色を眺める時間は格別です。当時はゆったりとした時間が流れていましたが、今やメディアでも引っ張りだこの超人気スポット。道東ドライブでは絶対に外せない定番の休憩ポイントです。

絶景と美味しい牡蠣でエネルギーをチャージしたあとは、次の目的地である「エモい無人駅」を目指して、さらに東へと車を走らせます。

原野にぽつん。JR花咲線・厚床駅のエモいベンチ

厚岸を出て国道をさらに進み、根室市に入ったあたりにあるのがJR花咲線(根室本線)の「厚床(っとこ)駅」です。

今回、どうしても立ち寄りたかったのが、この駅のホームにある「ベンチ」。

扉を開けてホームに出ると、そこに広がるのは地平線まで続きそうな道東の圧倒的な原野。そして、その静寂の中にポツンと置かれた、カラフルなプラスチックのベンチと駅名標。

周りには誰もおらず、聞こえるのは風の音だけ。 人工的な観光地にはない、このシンプルさと「ポツン感」が醸し出すノスタルジー(エモさ)は、はるばる車を走らせて見に来た甲斐があったと心から思える光景でした。

時が止まった昭和。旧奥行臼駅舎へ

1989年に廃止された旧標津線の奥行臼駅。昭和の面影がそのまま大切に保存されている、鉄道遺産です。

厚床駅からさらに車で15分ほど北上し、別海(べっかい)町にある「旧奥行臼(おくゆきうす)駅」へ。

ここは1989年(平成元年)に廃止された旧国鉄標津(しべつ)線の駅で、現在は貴重な鉄道遺産として保存されている場所です。

敷地内に一歩足を踏み入れると、そこはまさに「時が止まった世界」。 風合いのある木造駅舎は当時の姿のまま残されており、まるで一瞬で昭和の時代にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えます。

錆びた線路とホームのロマン

錆びた線路と、草に覆われかけたホーム。今にもディーゼルカーがやって来そうな、旅情あふれる場所でした。

駅舎の裏手に回ると、草に覆われかけたプラットホームと、どこまでもまっすぐに続く錆びた線路がそのまま残っていました。

現役の駅では絶対にできない「線路の上を歩く」という体験。 草むしたホームに立つと、今にも遠くからディーゼルカーのエンジン音が聞こえてきそうな気がして、静かなノスタルジーにどっぷりと浸ることができました。

ノスタルジックな余韻に浸りつつ、いよいよ今回の旅のハイライト、野付半島へと向かいます。

野付半島へ!トラクターバスは大揺れ注意

野付半島のランドマーク

奥行臼駅から車を走らせること約40分、ついに野付半島に到着! まずは拠点となる「野付半島ネイチャーセンター」を目指します。

ここから目指すトドワラまでは約1.3km。歩いて行くこともできますが、今回は名物の「トラクターバス」に乗車してみることにしました。

……が、このトラクターバス、想像を絶するワイルドさ! ガタガタガタ!と体にダイレクトに伝わる豪快な振動で、カメラを構えて撮影するどころではありません(笑)。

ガタゴトと体を激しく揺らされながら湿原を進んでいくこの体験自体が、忘れられないアトラクションのようでした。動画や写真を撮りたい方は、くれぐれもカメラやスマホのホールドに気をつけてください!

地の果て「トドワラ」の静寂と、野付半島のエゾシカたち

殺風景なトドワラ
水も干上がってよりこの世の果て感が増す
仮説の桟橋方面を望む

トラクターバスを降り、木道を少し歩くと、そこには立ち枯れたトドマツが並ぶ「トドワラ」が広がっていました。

海水による侵食や地盤沈下によって風化が進むトドワラ。荒涼とした景色の中に枯れ木がポツンポツンと佇む風景は、まさに「この世の果て」という言葉がしっくりくる静寂の世界です。

人工的な補修はいっさい加えず、風雨にさらされてやがて土に還っていく過程そのものが、トドワラの持つ儚くも美しい魅力なのだと感じます。

しかし、そんな退廃的な世界でありながら、ふと周囲を見渡すと、道路脇や草むらには立派な角を持ったエゾシカたちの姿が! 人間を警戒することもなく、のんびりと草を食む彼らの姿は、ここが「地の果て」であると同時に、たくましい生命が息づく「シカの楽園」であることを教えてくれました。

地の果て」トドワラに向かう途中、道路脇で出会った立派なエゾシカたち。人間を恐れず、ゆったりと過ごす姿は、まさに楽園でした。

釧路からの日帰りドライブは、返却時間との戦いでもあり大忙しでしたが、厚岸の絶景、厚床や奥行臼のノスタルジー、そして野付半島の「この世の果て」感とシカたちの生命力……道東の深すぎる魅力をぎゅっと凝縮した、最高の1日になりました。

年々その姿を変え、やがて消えゆく運命にあるトドワラ。 二度と同じ姿には出会えない「一期一会」の風景を求めて、ぜひ道東ドライブへ出かけてみてください。

目次